かどをまがる、ということ

2年前、まだスウェーデンにいた頃秋田の出身高校の60周年の校友会誌に頼まれた原稿が出てきました(Thinkpad ヨーコのデータをバックアップしたのさ)。ちと長いですけど、もしよかったら読んでみてください。タイトルは「かどをまがる,ということ」です。

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一ヶ月ほど前、シカゴの大きなアートフェアに自分の彫刻も出品させてもらえることになり、八日間の予定で出かけてきました。ギャラリーの人がオープニングパーティ(パーティ券が百二十ドルもする)のパスを用意しているからと言ってくれたので、おお、これは儲けたなどと思いながら時差ぼけでふらふらする頭で会場に向かったんだけどフォーマルパーティだというのを知らなかったんですね。お客さんもスタッフもアーティストも皆フォーマルなスーツなのに俺だけ普段着で。アーティストは自分の作品前で説明をしたりお話をするんだけど、誰も俺を作者だとは思ってくれないみたいなんですね。久しぶりに冷や汗をたっぷりかきました。
 何日かめのお昼に中華料理のテイクアウトの店でデザートのつもりなのかフォーチュンクッキーをもらいました。せんべいを二つ折りにしてへしゃげさせた空洞にことわざや箴言を書いた小さな紙がはいっているやつね。今もとってありますがそれにはこう書いてありました。Grand adventures await those who are willing to turn the corner.
 まずはここで自分のことを書いておきます。
十文字町の出身で湯高卒業後は秋大の鉱山学部にはいりましたが中退して東京のガラス工場でガラス吹きの技術を覚え、その後各地の工房で働きながらいろいろなことを覚えました。美術学校に四年行く代わりに十五年かけて絵を描くこと、版画をつくることや専門の技術を修行したというわけです。工場で三年ほど働いた後は札幌のガラス工房で働き、そこでスウェーデンの工房に推薦してもらい2年半働きました。夏休みを利用してアメリカのガラス学校へ助手として行き、そこで助手をした作家の工房に呼んでもらえることになりアメリカに渡ることができました。ポーツマス条約で有名なポーツマスの隣町です。五年後にフランスのマルセイユにある工房で働けるチャンスがあり、ヨーロッパに戻り、その後イタリアのヴェニスのガラス工場に移り、現在はまたスウェーデンに戻ってきているというわけなのです。
 
 一九八九年にスウェーデンに渡り、それが初めての海外渡航でした。ガラス作家になろうと決断したことも大きな転機だったけれどそれ以上にこのスウェーデン行きを決心したことがその後の流れを大きく変えたのだと思います。札幌の工房のボスだったスウェーデン人がこう聞いてきたのです。「知り合いのガラス作家が腕のいいガラス吹きを探しているが、スウェーデンに行く気はないか?」。反射的に「行きたい」と答えたときが、先の見えない曲がりかどをまがろうとした時なのだと思います。しばらくしてからものすごく不安になったのを覚えています。飛行機にはそれまで一度しか乗ったことがなく、ましてや海外へいったこともなければ、英語もほとんど話せなかったし。怖かったけれども外国で働き、そこに住んでみたいという憧れは圧倒的でした。もしかしたらもっと上等な人間になれるかもしれないし、何かが俺を待っているかもしれないという気がしたのです。でも正直にいうとアメリカに移るときは二ヵ国にすんだことがあるなんて人に言えたらかっこいいと思ったし、その後、フランスに行くことになった時も、フランス語が話せるようになるなんてかっこいいなぁと思えたのが嬉しかったのです。喋れるようにはならなかったけれど。楽しいことばかり起こるわけじゃないけれど(十文字町出身の俺にはすべてが冒険のようだったなぁ)、新しい場所に行き、新しい友だちに出会い、そして変わっていく自分を感じるのは生きていてよかったなぁと思える充実感があります。
 先の見通せない方向へあえて進んでみる思い切りのよさというのは新しいものに出会うための、あるいは創るための必要条件なのでしょう。また、動機に純、不純などはなく、ただそれに向かわせる強い強い力があるだけだというのもどうやら本当のようです。「人生をかけるに値するのは夢を追うことだけだ」という言葉の響きのよさにいまだに憧れを感じますが、反面、文字どおり自分の人生を賭けてばくちを打つのだということも身にしみます。夢を追うことは高くつくのです。あなたはどう思いますか?

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2 thoughts on “かどをまがる、ということ

  1. 今回は随分と堅い内容ですね、生かされている自分の人生を生き抜く、匂いを嗅ぎ分けて・・・ってな感じではないでしょうか?振り返れば過去の曲がり角は見えなくなっていて一本道にしか見えないのが理想なんで「夢」なんて言葉は睡眠用語としか思っていません!ほら、こっちの文章まで堅くなる~

  2. Chattaさん: だってこれ高校の校友会誌への原稿だからさ、母校の後輩へのアドバイスみたいな依頼だったし。ここに書いてるような素のまま書いちゃまずいでしょ。カキザキ、大人だしさ(魂はもちろん思春期15歳だけどね)

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